エビデンスに基づく教育(EBE)って何?

 エビデンスに基づく教育とは、これまでの勘と経験による指導に加え、エビデンスを参考にして教育の実践や政策を行っていくことです。

 詳細な定義は、「入手可能な最良の研究調査・実践結果をもとにして、実践者の専門性と児童生徒及び保護者の価値観を統合させることによって、臨床現場における実践方法に関する意思決定の最善化をはかるための行動様式」です。

 

EBEとは?

エビデンスに基づく教育に関する論文はこちら⇩

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エビデンスって何?

  エビデンスとは、「科学的根拠」という意味です。客観性、妥当性、再現性があり、確からしい知見をエビデンスといいます。残念ながら、データ、研究、評価と似たような言葉がありますが、エビデンスとは、質のより高いものです。イメージでいうとふるいに落とされた純正の高いもの(純金や結晶)のようなものです。

個人の意見・・・インターネット上のブログ、多くの書籍などは、あくまで個人の意見を指します。これらは、  

        エビデンスとは言い切れません。注意しなければいけないことは、専門家の意見もあくまで意

        見であって、個人の意見といえることです。

 

データ・・・単なる数字を指します。全国学力学習状況調査など学力データの結果などは、データといえます。

  

研究・・・実践研究などを指します。データよりは質の高いと言えますが、中には、誤った研究方法により、

     誤った結果やそこまで主張することのできないものもあります。

  

エビデンス・・・大規模に取り組んだ優れた研究をまとめたものを指します。大規模とは、何万人という人を対

        象にして調査した研究のことです。それら1001000個をまとめ、明らかになった知見を質

        の高いエビデンスと言います。

 

上記のように、「様々な情報には質の差がある」というのが、EBEの主張の一つです。


具体的に、どうすればよいの?

~エビデンスに基づく教育実践編~

エビデンスに基づく教育実践は、5ステップSICO(シコ)を用いて、計画・実践していきます。

5ステップとは・・・

 

目の前の問題からはじまり、関連する情報を集め、実際の指導に取り入れることができるのか吟味し、実践し、振り返るという5つのシンプルな手順です。

 

 

ステップ1:SICOを使って、問題を整理する。

 

ステップ2:その問題のエビデンスを探す。

 

ステップ3:手に入れたエビデンスを見極める。

 

ステップ4:3つのポイントで手立てを考え直し、決断する。

 

ステップ5:一連の手立てを振り返る。

 

 

SICO(シコ)とは・・・

践上の悩みや課題を簡単に整理した考え方がSICOです。

以下の4つの項目にあてはめて実践を考えたり、見直したりします。

  

Student

(児童・生徒)

「どんな児童(生徒)に」

ntervention

(指導)

「何をすると」

Comparison

(比較)

「何と比べて」

Outcome

(成果)

「どんな効果がある(あった)か」

 

このような5ステップやSICOの考え方を頭の中のフレームワークにすることで、素早く、論理的に、EBEで考えることができるようになります。


学校で、エビデンスに基づく教育実践に取り組みたいけど、どうすればいいの?

学校組織で取り組むには、「学校改善サイクル」が必要です。

それぞれのサイクルについて、説明していきます。

1 「達成したい目標の明確化」

  自分の学校で達成すべき目標を明確にします。教員だけでなく、地域、保護者の願いも踏まえて、総合的に判断します。その際、今の学校の実態、課題は何かを、可能な限りのデータを指標として検討します。どんな教育を目指していくのかといった教育哲学のような人々の価値観を含んだ話し合いが必要です。

 目標が明確になるには、その目標が達成されたときの、学校や児童生徒の具体的な姿が必要です。アンケート項目をあらかじめ、設定するなど、より具体的な目標にすることが重要です。

 また、所属する都道府県や市町村教育委員会の方針も踏まえて自分の学校の目指すべき教育のあり方を考える必要があります。

 指導の重点を明らかにすることにもつながるため、全教育活動の重みづけを行うことにもなります。

2 「解決方法の模索」

 達成したい目標へ向けて、様々な情報を収集します。たった一つの特定の方法にこだわる必要はありません。様々な情報の中でより確かな情報を参考にしながら、目標達成の材料として取り入れてみることです。

 その際、情報には質の差があることを意識し、よりよい情報を見極めることが重要です。

労力・・・情報を手に入れるのにかかる手間

関連性・・・情報と現実の課題とつながり

妥当性・・・情報の正しさ

※EBEは、エビデンスに従うことではありません。その場、その状況に応じて、より良質の情報を的確に手に入れ、総合的に意思決定を行っていこうとするのが、EBEです。

3 「成功事例」

  EBEを具体となったものを校内で共有します。

 1の達成したい目標が表れた児童生徒の姿を事例として紹介したり、具体的な授業実践を全職員で参観したりします。このように、目標を具体として、共有することが重要です。

 この場合、とくに授業場面では、教師の指導の在り方以上に、児童生徒の学びの変容や成長を見ることができるように、校内研究授業のあり方を工夫しましょう。

4 「効果検証」

  取り組みの効果を検証します。学校独自で厳密に効果を測定することは非常に難しいため、研究者と協働することも良案です。

 学校のみで効果を検証するとなると、学期ごとのアンケート調査や児童生徒、教員へのインタビュー調査が必要です。

 

5 「達成と拡大」

  取り組みの成果を学校で振り返り、次なる目標を設定します。年度末に次年度の計画を立てる学校が多いですが、このまま、同様の取り組みを続けるのか、一部、改善するのか、他領域にまで取り組みを広げていくのか、効果検証の結果を踏まえ、検討していきます。


エビデンスに基づく教育実践の効果検証と振り返り

  教育実践を積み重ねる中で、取り組んだ実践を他の人に説明しなければいけない場合、または実践の効果を検証したい場合、エビデンスに基づく教育実践が役立つかもしれません。

 左の図はエビデンスに基づく教育実践の全体図の中の「効果検証・振り返り」の部分です。

 

 

 

 

 

 

〇「効果検証・振り返り」とは

「効果検証・振り返り」は、取り組んだ実践の効果はどうだったのかを明らかにする試みです。

 

 

「効果検証」「振り返り」は、以下の2点について考える試みです。

 1 「どんなことを」→効果検証の視点

2 「どうやって確かめるか」→検証の方法

 

〇効果検証の視点

 

効果検証の視点とは、授業づくりでいう「ねらい」です。効果検証の視点は、この「ねらい」である目指す子どもの姿がはっきりさせるということです。はっきりしているからこそ、それにふさわしい検証方法を選択することができます。検証の方法が先にあるわけではありません。例えば、興味関心に関わる姿であれば、質問紙法や観察法などでデータを集めることになります。

〇検証の方法Ⅰ デザイン

 実践の効果を検証するためには、何かと比べる必要があります。ある実践が“よい”というためには、何と比べて“よい“といえるのか、その何かを考えることが効果検証の「デザイン」です。

全体像は左図の通りです。

 まず、比較する対象群の有無によって分類されます。さらに対象群との比較を行う場合、無作為割り付けを行うものと行わないものに分かれます。児童生徒自身を比較対象とするものもあります。それぞれの児童生徒の実践前の姿と実践後の姿を比較するのが、自己対照です。事前事後比較とも呼ばれます。複数の実践を順番に行って比較するのがクロスオーバーです。

 その他に、その実践以外の児童生徒の結果と比較する外部対照や既存対照もあります。全国学力学習状況調査や業者の単元テスト、PISAといった全国・国際的なテストの平均と比較することが外部対照、これまでに実践を行った児童生徒たちの結果と比較することが既存対照です。取り組んだ実践で可能な検証デザインを考えましょう。

 

○検証の方法 分析

 比較する対象が決まり、一定のデータが集まったら、統計分析まで挑戦したいものです。統計分析は、実践を行った実践者が自分自身の感覚を数値化することができたり、その実践の効果を数値で示すことができたりします。しかし、数字を様々に分析し、無理やり実践の効果を示そうとする場合もあるので、丁寧に分析したり、分析の結果を正しく理解したりするためには一定の分析力が必要です。これまでの伝統的な分析方法として、「カテゴリー化」「カイ2乗検定」「t検定」「相関」などがあります。ここでは、エビデンスに基づく教育実践との関わりが強い、「効果量による分析」をおすすめします。

 

○効果量による分析とは

 

 効果の大きさを使用する多様な方法がありますが、ここでは、少ない数のデータやエクセルで簡単に計算することのできる「効果量」による分析を紹介します。計算式は以下です。

  この効果量の計算を使って、様々な教育の取り組み(少人数学級やICTの効果等)を計算した人がいます。ジョンハッティです。ジョンハッティは、その中で、様々な教育の取り組みの大きさは平均して「0.4」の効果があるとしました。そのため、この「0.4」と比較して実践の効果を示すことができます。

 

○エビデンスに基づく教育における分析と振り返り

  エビデンスに基づく実践の振り返りとして、実践そのものの効果を検証するということと、もう一つ自分自身がどのように実践に取り組んだのかという振り返りがあります。実践づくりのプロセスを振り返るということです。EBEに取り組んだ自分自身の態度はどうだったのか。こういった測定が難しいところにも目を向けて振り返ることがEBEの醍醐味です。


校内研究をテーマにしたエビデンスに基づく校内研究の事例として以下があります。

 

2020年度 第56回 「実践!わたしの教育記録」 特別賞 受賞作

“イヤイヤ”校内研究を “わくわく”校内研究に!~3つの壁への3つの取組~

 


エビデンスに基づく授業に取り組んでみたい!

でも、そこには、5つの壁(課題)があります。

エビデンスに基づく教育を阻害する5つとは・・・

詳しくはこちら⇩

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エビデンスを授業で活用する際の課題 (入門版).pdf
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 エビデンスリテラシーとは,データや研究を読み解き,政策や実践に活用する能力のことです。このエビデンスリテラシーは,エビデンスの産出を促進させるためにも,政策や現場での問題解決においても決定的に重要であると指摘されています。(惣脇2017:133,大槻2012:276)

 原田(2015:34)では,具体的にこのエビデンスリテラシーを8つの能力と定めています。①アセスメント,臨床判断,ケースフォーミュレーションおよび指導計画を行う能力,②臨床的意思決定,実践遂行,児童生徒の変化をモニタリングする能力,③対人関係能力,④継続的な自己洞察とスキルを獲得する能力,⑤基礎心理学および応用心理学の研究によるエビデンスを適切に吟味し,活用する能力,⑥治療における個人的,文化的差異の影響を見きわめる能力,⑦必要に応じて活用可能な資源を求める能力,⑧臨床的方略に対して説得力のある論拠を準備する能力の8つです。医療や心理教育分野では,大学の実務家向けのカリキュラムに位置付けたり,ツールキットの開発が行われたりするなど,このリテラシーの育成に積極的に取り組んでいます。(大島・福井2011)

 

   エビデンスリテラシーを身に着けるために・・・

          ↓ ↓ ↓

           EBE修行


EBE修行の心得1

「その場の1分、その日の5分」

 とりわけ、若い先生には、理論と実践の両方を大事する気持ちとシンプルな手順をおすすめします。エビデンスに基づく教育実践には、「その場の1分、その日の5分」という理論と実践に取り組むための具体的な方法があります。「その場の1分で、困ったこと、分からないことを調べましょう、その日の5分で指導の振り返りをしましょう。」という意味です。忙しい学校現場では、理論といっても、難しい学術論文を丁寧に読みこんだり、莫大な過去の実践事例を詳細に調べたりすることがなかなかできません。そのため、1分でより効率的に、より効果的な情報を手に入れ、問題を解決できるようにしたいものです。そんな時、身近な先輩に聞くことに加え、科学的根拠のある教育情報サイトも役に立ちます。

海外の教育機関には、動画や指導案形式でエビデンスを無料で分かりやすく提供しています。

○What Works Clearinghouse  (USA)  http://ies.ed.gov/ncee/wwc

○Iterative Best Evidence Synthesis (NZ) https://www.educationcounts.govt.nz/publications/series/2515

 これらの情報は、大規模かつ厳密に計画された実験により明らかとなった客観性の高いエビデンスです。英文での情報ですが、日本語訳のホームページ(龍谷大学犯罪学研究センター)も公開されています。インターネットの翻訳機能(DeepL翻訳やGoogle翻訳)を利用して概要を理解するもよいと思います。

 その他、Googleスカラーで毎日、簡単に携帯に情報を送られてくるように設定することができます。また、FacebookやTwitterなどを利用して、信頼できる情報をすぐに手に入れることもできます。このような情報を利用することは、忙しい日常的生活の中で、学び続けることのできるEBE修行の一つです。

 

EBE修行の心得2

「その週の30分、その月の1回」

 EBE修行には、「その場の1分、その日の5分」に加えて、「その週の30分、その月の1回」もあります。週で30分は、本を読み、月に1回は、研修会など外に出て学びましょうという意味です。週の30分を利用して、興味のある書籍や教育雑誌を読んでみてはいかがでしょうか。月間生徒指導はじめ、教育に関する雑誌はたくさんあります。月に1回は、校外の研修会に参加してみてはいかがでしょうか。教育雑誌のHPには、研修会情報が掲載されています。EBEという点では、学会への参加をおすすめします。理論的な背景を学ぶことができます。自分の関心のあるキーワード、学会で検索してみてください。日本には教育関係の学会が50以上あるので、自分に合った学会があると思います。

EBE修行の心得3

「批判的吟味(エビデンスリテラシー)」

以下の事例をもとに、様々な情報を批判的に吟味してみましょう。

エビデンスリテラシーを高める練習です。

 

1 A小学校で、児童の不登校を減らすために、希望者にカウンセリングを実施し、非希望者には実施しなかった。カウンセリングを受けた児童と受けなかった児童の不登校の継続率を比較した。その結果、出た効果は、本当か。

 

2 B小学校において、学力が向上すると言われているプリント指導を行った。無作為に20名の生徒を抽出して、それを無作為に実験群とコントロール群に分けて実験を行い、学力向上の効果や成果を検討した。出た効果や成果は、その後、全校実施し、十分な効果を発揮できるといえるか。

 

3 C中学校における喫煙防止教育の効果を知るため、ある実践を行った。全800名の生徒がいたが、実践を受けることについて希望が得られた生徒250名を、無作為に2群に割付け、その一方のみに教育を行い、2群の喫煙防止行動を比較した。他校でも、同様な効果が出るといえるか。

 

4 D高校において、薬物乱用を減少させるため、教育プログラムZを行った。その効果を明らかにするため、薬物に対する態度(例えば 薬物を使用したいという気持ち)を用いた。薬物に対する態度が改善されれば、薬物乱用は減少するといえるか。

答えが知りたい方は、お問い合わせフォームにて、お問い合わせください。


~エビデンスに基づく教育政策編~

 教育政策編は、限定ページにて、実践編のような資料を掲載しています。

イギリスでエビデンスに基づく教育をリードしていEducation Endowment Foundationは、以下のように、エビデンスに基づく教育の重要性について語っています。


さらに、エビデンスに基づく教育を学びたいと思っている方・・・

 

残念ながら、EBEを学ぶことのできる方法は現在、とても限られています。

そのため、現在、考えられる方法は以下の通りです。

 

1 本研究会のMLやTwitter、Facebookなどに登録する。

  無料で最新のEBEに関する情報を手に入れることができます。詳しくは、「MLの登録について」まで。

 

2 本HPをじっくりとみる。

  「活動記録」コーナーには、これまでの研究大会の資料が無料で掲載されています。

 

3 研究会に参加する。

  例年、エビデンスに基づく実践と政策セミナーを実施します。詳しくは、「研究大会のご案内」をご覧くだ

 さい。

 

4 推薦図書を購入してみる。

  日本では、数少ないEBEに関する書籍を紹介しています。ぜひ「推薦図書」コーナーをご覧ください。

 

5 問い合わせてみる。

  本研究会には、様々な分野のエビデンスの専門家がいます。あなたの課題にあった専門家をご紹介すること

 が可能です。詳しくは、「あなたの取り組み、お手伝いします!」コーナーをクリック。

 

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